高田 坦史 様

㈱トヨタモーター セールス&マーケティング 代表取締役社長
㈱トヨタマーケティングジャパン 代表取締役社長



Hiroshi Takada

「今そして将来、社会から望まれているものは何か、何が必要とされているのかを的確に読み取り、それに応える真に革新的な技術・クルマが生み出せるか、ということにかかっていると思います。」

はじめに、高田様が社長をされていらっしゃる2つの会社、㈱トヨタモーター セールス&マーケティング(TMSM)と、㈱トヨタマーケティングジャパン(TMJ)についてお伺い致します。 トヨタグループにおけるこの2つの会社が設立された背景や、役割(responsibility)、目指すもの(mission)はどのようなものでしょうか。

2つのマーケティング会社は、国内ならびにグローバルでのマーケティング業務の実践・支援を行うことを目的として2010年1月に発足しましたが、その背景として、ひとつはリーマンショック以降の世界的な経済危機に際し、ビジネス、ブランドの強化に向けて社会の大きな変革のうねりに対応できるような、より自由闊達で柔軟なマーケティング組織が必要となったこと、もうひとつはそれまで以上に専門性・機動性を高め、効果的・効率的な活動が必要となっていたことも設立の背景となっています。

国内外の多くのグローバル企業における共通の課題として、ブランディング活動のグローバル化とローカル化のバランスをどのように考え、対応するのか、というものが挙げられます。 トヨタブランドのグローバルでのマネジメントにおける、「グローバル統一」「ローカル対応」に関するお考え、実際の活動についてお聞かせください。

これまでのグローバルでのマーケティングの基本的な考え方は、各国の特長、マーケットの独自性に合わせ、マーケティングを担当している組織(ディストリビューター)に任せる、というものでした。例えば同じカローラであっても日本では大衆車ですがあるエリアでは高級車であったりするなど、ポジショニングは異なりますし、またコミュニケーションという視点においても、あるエリアでは良い表現であっても別のエリアでは文化的にタブーとなるなど、全世界共通の形で展開することは難しいため、マーケット毎に個別に展開を行ってきました。 一方で近年、インターネット、特にSNSの広がりによって様々な情報が瞬時に行き交うことにより、世界がひとつになりつつあるというような、大きな変化が起きています。競合他社のやり方を見ても、例えばヒュンダイ、フォード(フォーカス)等は、明確にグローバル統一の方向性を打ち出してきていますが、これらもメディア環境の変化に大きく影響していると思います。 こうした流れの中で、トヨタでもクルマのポジショニングの設定やコミュニケーション活動をこれまでのようにマーケット毎に個別に行っていくべきか、グローバルで共通にすべきところとそうでないところの線引きの見直しについて、各エリアのマーケティング、ディストリビューター担当役員からなる「トヨタブランドフォーラム」内で検討を始めています。フォーラムでは外部講師を招きグローバルでのブランドマネジメントのあり方の研究や、エリア毎のコミュニケーションテーマの絞込みの検討とそのサポートなどの議論をしています。

グローバル化の取り組みの中では、新たな「トヨタらしさ」の定義・共有といったことも行われているのでしょうか?

これまでの「トヨタらしさ」は、長い歴史の中で「Quality」「Durability」「Reliability」等、クルマの性能を通じてお客様に感じていただいたものや、ディストリビューターを通じて個々に伝えられてきたものが蓄積され、定評として形作られてきていましたが、現在、トヨタブランドフォーラム内でマーケティング主導による「トヨタらしさ」のグローバルでの発信について、検討がなされています。

2009年から2010年にかけて主にアメリカ国内において、トヨタは大規模なリコール問題に見舞われました。その危機的な状況をどのようにマネージし、挽回されてきたのでしょうか。 また、この件を通じて学ばれたこと、伝えたいことについてお聞かせください。

行ってきた対応としてリスクマネジメントの観点から大きく2つのことが挙げられます。ひとつは、的確でスピーディに判断し行動できるよう、エリア単位のローカル個々のパワーや意欲をより活かすような仕組みを強化していこうという、従来からの観点。もうひとつは、各エリア個別に発生したリコール等のリスクに対して、グローバルで統一して対応できるようなプラットフォームを持つ、という新しい観点です。このようなリスクマネジメントに関する対応策の強化は、先にお話したトヨタブランドフォーラムが設置されたきっかけのひとつともなっています。 今回のリコール問題は、情報の発信・伝達のこれまでにない速さ、グローバル化、それをもたらす新たなメディア環境の存在というものを痛切に感じました。従来のディストリビューターを通じたお客様との1対1の対応を基本としながらも、グローバルでのHPの整備や、インターナルへ向けたものも含めデジタルメディアへの新たな取組みも、重要な課題として進めています。

この度、インターブランドによる新たなブランドランキングである「Best Global Green Brands 2011」におきまして、TOYOTAブランドは第1位にランクされました。 プリウスをはじめとするハイブリッド技術や様々なCSR活動が高く評価されたわけですが、今後目指されているものは何でしょうか。 またその実現のために、トヨタブランドとしてどのようなことをされていくのでしょうか。

今そして将来、社会から望まれているものは何か、何が必要とされているのかを的確に読み取り、それに応える真に革新的な技術・クルマが生み出せるか、ということにかかっていると思います。日本では震災を契機に、それまで以上に省エネルギー意識が高まり、スマートグリッドについての議論も一気に進んできていますし、クルマのあり方や求められるものも大きく変わってきています。将来的には自動運転のようなシステムも考えられますが、いずれにしても今後 、人とクルマ、クルマとクルマがよりつながっていくことになると思います。 そしてそれを支えるものは、やはりインターネットを中心とするデジタル技術だと思います。 また、現在のハイブリッド(HV)、プラグインハイブリッド(PHV)、電気自動車(EV)という流れにおいては、バッテリー性能の向上、インフラの整備だけでなく、競合できる価格を実現するため、実際に使う時の乗車人数、あるいは走行距離を勘案した新しいクルマのあり方も検討していく必要があります。そういった新しい価値観の提供を通じて、先進国で共通して見られる「若者のクルマ離れ」という課題にも対応していかなければならないと思っています。

注目されているブランドはありますか?また、その理由もお聞かせください。 また、ご自身の考え方などに影響を受けた本や考え方などありましたらご紹介ください。

世の中の変化を敏感に感じ取り、迅速に対応策を打ち出すことのできるブランドに注目しています。 例えばヒュンダイです。彼らのグローバル規模での意思決定のスピードは、日本のグローバル企業より一歩先を行っていると思うからです。 経済状況や価値観は時代とともに、ある時には一夜にして大きく変化します。これまでの変化に富んだ情勢への対応の経験を活かすとともに、そうしたブランドの動向を注視することで、今後のトヨタブランドのさらなる飛躍へつなげたいと思っています。


ABOUT HIROSHI TAKADA

1969 年トヨタ自動車販売株式会社に入社、1982年のトヨタの工販合併を経て、トヨタ自動車株式会社の宣伝部長、国内営業常務役員、グローバル営業企画の専務取締役を歴任し、2009年より現職